ある時、坂本村(現在の御浜町阪本地区)の峰弥九郎という猟師の元に、一匹のかわいい子犬がやってきました。弥九郎は「半年前に山で助けた狼が、お礼に子をくれたのだ」と喜び、子犬にマンと名付けて大切に育てます。大きくなると狩りに連れて行き、弥九郎も驚くほど素晴らしい猟犬になり、あたり一帯でその名が知れ渡るようになりました。
しかしある夜、弥九郎を訪ねてきた叔母がこう告げます。「マンは狼の子という噂があるが本当か」「狼は、生き物を千匹殺すと飼い主までも襲うという。狩りをしているから、そろそろ千匹になるのではないか」―――外でこの話を聞いていたマンは悲しみ、夜空に向かって遠吠えをすると、それ以降弥九郎の元へ姿を現すことはありませんでした。
御浜町が発祥であるとされる、強い忠誠心とすぐれた運動能力を持つ紀州犬は、そんなマンの血を引いていると言われています。